不動産投資などの事業において、法人を設立すると社会的信用度を高めたり所得税が節税できたり、さまざまなメリットがあることは広く知られています。しかし、実はもう一つ大きなメリットがあります。相続税対策にもなることをご存じでしょうか。
法人設立による相続税対策に焦点をあてて、そのメリットや注意点を考えてみましょう。
なぜ法人化するのか?
相続人に課せられる相続税は、被相続人(亡くなった人)の相続財産の内容によって決定されます。相続税も所得税などと同じく課税対象金額に応じて税額が上がる「累進課税」となっており、財産が多ければ多いほど税額が大きくなります。
被相続人は法人を設立して財産を合法的に法人に移転、あるいは分散させることで、結果的に相続税を少なくすることができます。具体的な法人化による相続税対策には下記が挙げられます。
・被相続人の相続財産をできる限り法人名義にする
・贈与税を発生させずに生前から資産分配する
・事業を相続人に引き継ぐ
法人化して相続人を役員に
法人設立による相続税対策の最も大きなメリットは、「贈与税を支払わずに相続人(後継者)への財産移転を行える」という点にあります。その手法の最たるものが相続人を法人の役員にすることです。そうすることで、家賃収入などを「役員報酬」というかたちで相続人に分配することが可能です。
被相続人にとっては相続財産の現預金を抑えることになるので、相続税が節税できます。また、正当な業務に対する給与なので、たとえ親から子への支払いであっても贈与税の対象にはあたりません。
生命保険を使った相続税対策
次は生命保険を活用した相続税対策です。生命保険の被保険者(被相続人)が死亡すると死亡保険金が発生し、相続税の課税対象となります。2018年4月時点の相続税法では、このうち「500万円×法定相続人数」が非課税です。また生命保険料の控除額は、個人の場合は上限が12万円ですが、法人の場合は保険の種類にもよるものの、全額もしくは1/2や1/4が経費として計上できます。
なお、個人にはないメリットの一つに「弔慰金の支給」があります。これは会社経営者や従業員が死亡したときに会社から残された家族に支給されるお金のことで、被相続人である本人の死亡が業務上の理由であった場合は給与の3年分、業務外の場合は給与の半年分を上限として支給されます。これも非課税です。
退職金を使った相続税対策
相続税は被相続人が生前所有していた財産にかかるものです。その意味では「生前から合法的に所有財産を少なくしておく」というのも立派な相続対策です。
法人化することで退職金制度を利用する方法があります。
退職金は「退職所得控除」といって、給与所得とは違った控除額が設定されています。勤続年数20年を分岐点としており、20年以上の場合はより大きな控除額が設定されます。いずれにせよ、退職所得は一般的な給与所得よりも控除額が優遇されているので、その分、節税ができます。
土地をその法人に売却して、相続税を支払う
被相続人が不動産を所有している場合、収益の柱となっているのは通常建物であるケースが多いので、法人設立時に建物部分だけを法人に売却し、冒頭で触れたような所得分散を行います。もしそれでも相続税が発生してしまった場合は、土地を相続税に見合った売却益を付けてその法人に売却し、相続税を支払うといった方法も可能です。
相続税対策で会社を設立する場合の注意点
相続税対策で会社を設立する場合、注意点があります。まず、資本金は1,000万円未満にすることをおすすめします。資本金が1,000万円を超えると、設立初年度から消費税の申告が必要になります。また、法人地方税の「均等割」により税金が高くなります。
さらに、株主は相続人にしましょう。被相続人である本人が株主になってしまうと、相続時に「被相続人の株式」という相続財産が発生してしまうからです。加えて、相続人全員を役員にするといいでしょう。相続人全員に役員報酬として給与を支払うことが可能です。役員は社員ではないので、勤務地や労働時間を拘束する必要もありませんから、効率良く資産を移転できます。
節税対策として非常に有効な法人設立ですが、法人税や経理的な事務作業の増加など、法人化によるコストも発生します。これらもしっかりと考慮して、個人の保有資産が上手に移転できるように検討しましょう。相続税対策として法人化を考えている人は、税理士などの専門家に相談したうえで実施することをおすすめします。