収益不動産を購入する際、節税対策の面から多くの人が「法人名義」で購入しています。最近、日本政府は個人の所得税率を上げて法人税率を下げる傾向にあることから、今後ますます法人名義での不動産購入がふえるでしょう。
そこで、最初に知っておきたいのが「節税」には大きく2つの考え方があるという点です。一つは単純に税率の違いに着目して、納税額を抑える考え方です。もう一つは課税対象となる利益を調整し、結果として納税額を抑えるという考え方です。これは一般的に「財テク」と呼ばれています。
これらを踏まえたうえで、法人名義によるマンション購入にはどのような節税方法があるのか考えてみましょう。
所得税率と法人税率
税金対策のなかで最もポピュラーなのが、「所得税率」と「法人税率」の違いを利用したものです。所得税率は「累進課税」の方式を採用しており、課税対象額が大きくなるほど税率は高くなります。この方式は、所得に応じた税負担と富の集中を排除することを目的としてつくられています。
税率は、個人の場合と法人の場合で大きく異なります。会社勤めなどで給与所得を得ている個人の場合、不動産所得と給与所得は合算されます。そのため、課税所得と税率はより大きくなり税負担も大きくなります。
ところが法人名義であれば、その利益は個人の給与所得とは別に計算されるため、適用される税率を低くすることができるのです。そのため、不動産投資家には法人を設立し法人名義で購入して節税する人が少なからずいます。
減価償却費
「減価償却費」とは、不動産購入時において、建物部分の金額を残る耐用年数で按分して経費計上できる費用のことをいいます。この減価償却費も個人と法人では大きく異なります。
まず個人の場合、減価償却費は「強制償却」と呼ばれ、毎年必ず決められた額を経費として計上する必要があります。これは仮に不動産所得が赤字であっても同じです。
一方、法人での減価償却は「任意償却」になります。これは決められた額の範囲内で、償却額を任意で決めていいという意味です。たとえば、ある年の利益が300万円出ていて、減価償却枠が400万円であった場合は、減価償却費300万円を計上すれば利益を0円にすることができ、法人税を支払う必要がなくなります。残った100万円は翌年以降の利益から償却すればよく、法人では利益を調整することができるのでより効率的に節税が行えます。
譲渡所得
建物売却などの「譲渡所得」に関しても、個人と法人では大きく異なります。個人が譲渡する場合、その不動産の所有期間が「5年以下」か「5年を超える」かによって、「短期譲渡所得」と「長期譲渡所得」に分けられ、各々にかかる税率は約40%、約20%となります。いずれの場合も譲渡所得として独立して計算され、不動産所得が赤字であっても合算はできません。
一方、法人においては、譲渡所得・不動産所得を含めたすべての利益で所得税を考えることができるため、その年の利益に応じてさまざまな調整が効くようになります。減価償却費と同様に、利益を調整して納税額を抑えるという考え方です。
役員報酬
次に不動産から得た利益を個人に還元する際の節税方法です。上述したとおり一般的に個人の場合、不動産所得はすべて個人所得になります。「青色事業専従者給与」といった制度を用いて、所得税率の低い人に給与として振り分けることも可能ですが、これは法人における役員報酬と違いさまざまな制約があります。個人名義で購入したマンションからの不動産所得は、購入した個人に支払われると考えておきましょう。
一方、法人によるマンション購入では、その不動産所得を役員報酬というかたちで分散することが可能です。たとえば、所得の低い(所得税率の低い)妻を自分の法人の社員にし、給与として役員報酬を支払えば、トータルで見た場合に納税額を低く抑えられます。個人の「青色事業専従者給与」と異なり制約もありません。妻がどこで勤務していても、法人から給与として支払うことが可能です。
保険・経費による節税
法人では、保険を利用した節税方法もあります。中小企業の倒産などを防ぐ「倒産防止共済」と呼ばれる保険では、掛け金を経費計上できるため毎年の利益を積み立てることで節税が可能です。さらに大きな効果としては、大規模修繕まで積み立てておいて大規模修繕が終わったタイミングで保険を解約し、大規模修繕費と解約返戻金を相殺することで利益を平準化できます。もちろん、万が一倒産したときの保険にもなります。ちなみに個人ではこの共済を利用することはできません。
このほかにも、法人では個人事業主にはないさまざまなものを経費計上できます。たとえば、個人が住んでいるマンションを法人名義で借りて、家賃の一部を経費計上するといったことも可能です。交通費などを「出張手当」として法人から個人に支給すれば、支給された個人は非課税になります。こうしたものの積み重ねが、結果的に節税となります。
法人だからできるさまざまな節税方法は、あくまで購入したマンションが収益物件として健全に運営され、利益が出ていることが前提です。利益が出ていなければ結局、節税効果は期待できませんし、法人を持つと維持するための経費が毎年かかりますから、そのコストがより収益を圧迫するかもしれません。
法人化して不動産経営を行うなら、購入前にしっかりと収益計画を立てましょう。また、税金に関してわからないことがあれば専門家である税理士などに相談するようにしましょう。