平成27(2015)年、相続や贈与に関する税制が大幅に改正され、基礎控除額が引き下げられて、これまでよりも税率がアップしました。これにより「相続対策」への関心が高まり、さまざまな手法が節税対策として注目されるようになりました。その一方で、行き過ぎた節税対策への対抗措置も取られました。
相続問題を避けて通れる人はどこにもいません。今回は、あなたが保有する資産をどう次世代に継承するべきなのか、この問題について考えます。
行き過ぎた相続対策に対抗策がとられる
2015年の税制改正で相続税が大幅に引き上げられた結果、富裕層と呼ばれる人たちはさまざまな相続対策を実施しました。この対策の基本は、不動産の評価額と実勢価格との差を利用したものです。なかには、一般社団法人などのように、持分の定めのない法人に資産を移転し、相続税を回避するスキームを利用するケースも登場しました。
しかし、タワーマンションを利用した節税は、高層階ほど固定資産税が上がる評価法が採用され、一般社団法人については、「役員の要件の厳密化」などで行き過ぎた節税スキームに対する対応策が打ち出されたのです。
新しい節税の手法が生まれると、ルールが変更されて短期間でその効果が失われる……。いわば節税対策と税制改正のイタチごっこが続いている状態です。あまりに「賢く」法制度を利用すると、すぐに修正「パッチ」が配布され、穴がふさがれて結果的に節税に失敗してしまうわけです。そのため、適度に法制度を利用して、効率的に財産相続する方法を考えるべきだといえるでしょう。
不動産による相続税対策
効率的な資産の移転とは、適正な範囲内で資産を圧縮し次世代に移転、次世代が圧縮した資産を解凍して元の資産以上の価額を得ることです。
「資産を圧縮する」とは、相続税や贈与税の課税評価額を低減することをいいます。また、次世代が解凍して、元の資産以上の価値を得るためには、圧縮した資産は解凍後、「お荷物」にならないものであることが必要です。
現行の税制で土地の評価額は、公示価格の約80%となる路線価で評価されます。また、建物の固定資産税評価額は購入価額の50%程度となります。このように不動産の評価額は、実勢価格に比較して圧縮されていますが、不動産を賃貸物件とした場合はさらに圧縮されることになります。貸家を建築した敷地は「貸家建付地」と呼ばれ、次の計算式で価額を算定します。
貸家建付地の価額=自用地とした場合の価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
たとえば、今土地(5,000万円)と金融資産(5,000万円)を所有しており、この土地に5,000万円の賃貸物件を建設するとします。この場合、どの程度の資産圧縮ができるかを検討してみましょう。
計算すると相続税評価額は、以下のようになります。
(土地)実勢価格:5,000万円 → 評価額:3,160万円 ※貸家建付地
(金融資産)現金:5,000万円 → 評価額:2,500万円 ※賃貸物件(固定資産税評価)
(合計)1億円 → 評価額:5,660万円
1億円の資産が、賃貸物件の建設によって約57%に圧縮できるようになります。このように実勢価格と評価額の差を利用した資産圧縮で相続税の節税は可能になるといえます。
また、以上の事例のように、手持ちの自己資金を用いて賃貸物件を建設した場合、アパートローンの返済を考慮する必要がありません。賃貸経営においてローン返済がなければ、空室リスクや賃料低下リスクへの耐性が大幅に高まります。
さらに、将来の人口減少やデフレにも強く、賃貸経営の長期安定化に寄与します。この点からも効率的に財産を移転したということになります。ただ裏を返すと、長期ローンが残り、空室リスクが高い賃貸物件の場合は、相続人にとって「お荷物」になる危険性があることにも注意が必要です。
納税資金の準備をしておく
ここまでは「節税」に焦点をあてて、相続対策について話を進めてきましたが、相続においてもう一つ忘れてはならない大切なことがあります。それは「納税資金の準備」です。
資産の所有者は、相続が発生すれば相続税が課税されることを意識はしていますが、多くの相続人は自分で相続税を支払う意識が薄いといえるでしょう。そのため、所有者は自分の資産の中から、相続人のために納税資金を用意しておく必要があります。
資産を贈与すると贈与税が発生します。ただし「暦年贈与」という仕組みがあり、受贈者(贈与を受ける人)は、毎年1人あたり110万円まで非課税で贈与を受けることができます。
上述のように、所有者本人が自分の土地に自己資金で賃貸物件を建設すると、資産の圧縮が可能となるだけでなく賃料収入も期待できますから、この賃料収入から相続人に暦年贈与を行えば、年間110万円の資産移転が無税で行えるのです。つまり、10年間の贈与で1,000万円以上の納税資金が準備できます。さらに、世代を超え、孫に対して暦年贈与を利用することも可能です。
誰しも「できるだけ税金を払わずに相続したい」と考えますが、さまざまある税制特例を利用した節税スキームを使っても、ルールを変更されては短期間でその効果がなくなります。そのため、適正と思われる範囲内で節税を行い、効率的な資産の移転を図ったほうが良いと考えられます。
人口減少時代では、相続対策のために不動産を利用する場合は、立地などの市場調査は必須です。不用意な借入れを控えながら、いずれ訪れる相続に備えましょう。