東日本大震災の復興事業や東京オリンピックなどの影響で売り上げ額の増加など、景気のいいニュースが相次ぐ建築業界。ですが需要拡大に伴い、人件費も高騰しています。
今回は大幅に上昇を続ける建築業界の人件費に焦点を当て、その理由をご紹介します。
東京都の1日あたりの労務単価推移
全国建設業協会のデータによると、東京都の2015年の特殊作業員の1日あたりの直接労務費は22,000円、普通作業員は19,200円です。
しかし5年前の2010年は、特殊作業員が16,900円、普通作業員が13,600円。大幅に上昇していることがわかります。
建設業界の労務費の高騰ですが、果たしてどのような原因があるのでしょうか? 今回はその理由をご紹介させていただきます。
バブルやリーマンショックによる建設労働者の減少
建設業界は多大な金銭が動く反面、景気の動向を受けやすい業界構造があります。1990年初頭のバブル崩壊やリーマンショックなど、日本経済は幾多の危機を乗り越えてきましたが、その傍らで、建設業界は長い不況に苦しんできました。
その原因としてあげられるのが不況による財政圧縮を起因とした公共事業削減や民間工事の激減。この影響で、バブル経済の真っ只中にあった1987年から、バブル崩壊後の2002年までのゼネコンの倒産件数は114件、負債総額は4兆2120億9400万円にのぼりました。
そして、バブル以降の不況による建築業界の仕事不足に伴い、建設労働者は徐々に減り始めました。特に2008年のリーマンショック以降は急激に落ち込み、建設業の就業者数は1997年の平均685万人をピークに、現在は約500万人まで減少しました。
現在オリンピックに向けた公共工事の増加や、東日本大震災に向けた復旧工事により建設業の需要が拡大しています。しかしこの約20年間で減少した建設労働者数は十分に戻っておらず、急な需要拡大に対応できていない点が、今回の労務費高騰の原因の一つとしてあげられます。
資材や間接労務費の増大が建設業界を苦しめる
建設会社を苦しめる労務費の高騰ですが、これは現場に限った話ではありません。建築物に必要なセメントや鋼材などの資材も高騰しています。
震災やオリンピックでの需要拡大の影響もありますが、資材の生産など、工場などで建築業界と携わる職人の間接労務費もその原因の一つとしてあげられます。
人手不足ももちろんですが、2015年度からは厚生労働省による労務費の改定により、約2%の賃金アップが確定、これが建築業界各社の財政を圧迫しています。
実際、1㎡あたりの建設着工単価は18万7000円。2014年の建築費は、1993年以来21年ぶりという高水準でした。職人の人手不足による労務費の高騰が、建設会社を苦しめる要因になっています。
本来は売り上げの額の増加により建設バブルで潤うはずの建設会社も、人件費や労務費の拡大でコストが必要以上にかさみ、当初想定していた利益を下回っています。
2015年の大手ゼネコンの決算を見ると、売り上げは増収になったものの、いまなお人件費高騰による営業減益に苦しむ会社もあり、影響は深刻です。
建設業界が抱える技術継承の課題
需要拡大により人手不足の建設業界ですが、その中でも豊富な技術を持つ「技術工」の不足は深刻な課題です。
技術を持った職人の減少は、建設される建築物の品質にも直接影響を与える部分であるため、技術の継承ができていない点は今後の懸念材料といえるでしょう。
また育成に時間がかかる点や、職人気質の業界であるがゆえの若者の定着率にも改善が必要かもしれません。政府が積極的に実施している外国人の受け入れなどを建設会社もありますが、まだまだ取り組みは始められたばかりです。
終わりに
建設ラッシュやそれに伴う人件費の高騰など、売り上げ増に注目が集まる建築業界ですが、その裏には深刻な問題が内包されているということを忘れてはいけません。
日本の高度な建築技術を引き継いでいく職人の育成が、これからの課題のひとつといえるでしょう。
・主要ゼネコン26社/15年3月期決算/粗利益率の回復鮮明、今期は受注減予想 日刊建設工業新聞(2015年5月18日付)
・国土交通省 外国人材の活用に係る緊急措置
・厚生労働省 建設の事業は労務費率、賃金総額の算定方法など が変わります!
・建設費高騰、21年ぶり水準 人手不足・資材高で 経済成長の足かせ懸念も(2014年7月16日日本経済新聞)