インフレ時代の不動産賃貸経営では、インフレによる給与と物価の上昇が、物件の劣化による賃料の下落圧力を相殺していたため経営も順調でした。しかし、現在のようなデフレ・人口減少時代では、賃料は常に下落の圧力にさらされています。この時代のオーナーには、賃貸経営に関する広範な知識が必要とされています。
ただ、「広範囲に及ぶ専門知識となると、資格が必要なのでは……」と不安に思われる人も少なくないでしょう。本稿では、賃貸経営のスキルと資格について考えてみましょう。
不動産関連の資格
不動産業界では「資格の三冠王」と呼ばれている資格があります。いずれも国家資格で国土交通省が主管する資格です。不動産業界で仕事をする場合、これらの資格を保有していると重宝されます。
・宅地建物取引士(宅建士)
・マンション管理士(マン管)
・管理業務主任者(管業)
前述の資格は、すべて不動産取引やマンション管理に関する資格です。賃貸経営に関するものでは、「賃貸不動産経営管理士」という民間資格もありますが、これは不動産管理に重点が置かれています。
その他にも、不動産に関連する民間の資格はさまざまあります。正直、何を取得するべきなのか、選択に迷うほどです。FP(ファイナンシャル・プランナー)やPB(プライベートバンカー)など、金融系の資格でも不動産の知識は必須で、受験科目に含まれています。
このように、不動産関連の知見が必要不可欠な資格もふえてきています。もちろん、不動産関連の知識があると交渉力が高まり、ビジネスシーンで大きな後押しをしてくれることでしょう。
資格だけで賃貸経営はできない
不動産関連や金融系の資格で必要な知識が、賃貸経営でも必要であることは確かでしょう。ただ、その事実と、「資格」の取得は別の問題です。前述の資格で必要となる知識があれば、賃貸経営は十分に可能です。
とはいえ、長期にわたり安定経営するうえでは、不十分かもしれません。もちろん、土地と資金さえあれば誰にでも賃貸経営はできますが、すばらしい経営実績を残せるかどうかはわかりません。
今の時代に必要なスキルとは
人口減少・デフレ社会での賃貸経営は、逆風の中を航海するようなものです。総務省統計局の「平成25年住宅・土地統計調査結果」では、空き家率が13.5%という結果が出ており、すでに住宅が過剰に存在している状況になっています。昨今の経営環境は「顧客(賃借人)の奪い合い」です。この厳しい経営環境の中で、長期間にわたり安定的にキャッシュフローを獲得するには、不動産の知見だけでは不十分といえます。
今や、不動産の価値は「物件の所在地でほぼ決まる」といわれています。しかし、同じ所在地にあって条件的に互角の物件同士でも、一つは満室稼働となり、もう一方は空室に悩まされるというケースも少なくありません。つまり、これからの賃貸経営ではマーケティングの知識も必須となってきます。顧客ニーズを常に把握し、所在地の属性に合わせて物件のリフォームなどをすることが、満室経営への道になります。
法律や制度の改正など、社会や経済の変化に敏感であることも大切です。日本社会は「少子高齢化」と「所得の二極化」が進んでいます。これは言い換えると、「高齢者・低所得者層の拡大」を意味しています。そのための法制度が「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」です。新たな法律や制度を利用して、これまで顧客でなかった人たちを新たに獲得するための努力が必要です。
かつて、賃貸経営は「楽な商売」と思われていました。ただし、それはインフレ・人口増加の時代の話です。デフレ・人口減少時代の今は、そうはいきません。社会や経済が大きく転換する時代は、これまでの常識がこれからの非常識になるかもしれません。
事実、土地に対する見方は、経済がインフレからデフレになったことで大きく変化しました。不動産は「負」動産という人もいます。空き家を売ろうにも、誰にも売れない時代にもなってきているからです。
不動産関連の知識は賃貸経営で役立ちますが、激変する社会・経済情勢の中で大切なことは、そうした知識や資格ではなく、環境変化を敏感に察知するアンテナと、時代の変化に適合した物件を顧客に提供することではないでしょうか。