賃貸経営は長期にわたる事業です。社会や経済情勢はもちろんのこと、さまざまな要素を考慮したうえで、不動産投資しなければなりません。そこで今回は、長期間の安定収益を確保するために、不動産を活用し、これから賃貸経営をはじめる人が考えておくべきことについて紹介しましょう。
日本の現実と将来を把握する 不動産市場への影響とは?
1. 少子高齢化
これからの賃貸経営に大きな影響を与えるのは「少子高齢化」でしょう。総務省統計局の「日本の統計2018」によると、日本の人口は2010年に1億2,805万人でピークを迎え、高齢者率は23%でした。これが2030年には人口1億1,912万人、高齢者率は31.2%に達すると予測されています。
人口増加の時代は、住宅に対するニーズも増大しました。しかし、人口減少の時代では、入居者の選択眼がより厳しくなります。高齢者層の割合も上昇しており、こうした状況は賃貸経営にとって逆風になるでしょう。長期にわたる賃貸経営では、このような将来の経済や社会の変化を見通しておくことが重要です。
2. 地価の二極化
いよいよ利便性で土地の価値が決まる時代となりました。大都市の商業地域の地価は上昇し、地方都市の商業地は、いまだに下落しています。かつて日本中で地価が上昇した時代がありましたが、それはかつての出来事です。現在は、敷地と家屋があるのに空き家として見捨てられている例も多々あります。
総務省統計局の「平成25年住宅・土地統計調査」によると、空き家率が13.5%に達しています。今は賃貸物件も所在地の利便性で選択される時代です。不動産活用の予定地がどのような特性を持っているのか、シビアに吟味しないと空き家リスクは高まるでしょう。
3. 訪日客がもたらす新市場
そんな賃貸物件市場ですが、悲観的な要素ばかりではありません。2017年の海外からの観光客は、約2,870万人となりました。月間では平均239万人の人口増加に相当します。観光庁は2020年までに、年間4,000万人の訪日外国人旅行者数を目標としています。さらに、民泊による観光客の受け入れ体制の整備が進められており、賃貸物件経営には順風といえます。
4. 住宅セーフティネット制度の誕生
国内要因でも新市場が誕生しています。高齢者・低所得者などは、従来の賃貸物件経営者が避けてきた市場ですが、住宅セーフティネット制度の稼働により、その状況も変わりつつあります。
特に、生活保護における住宅扶助に関する制度で、「代理納付制度」という地方自治体から大家に直接、家賃が振り込まれる制度もできました。また、高齢者・低所得者などの入居者を受け入れる大家の登録制度もあります。これらの制度を利用すれば、空き家リスクや滞納リスクは大幅に低下するでしょう。
土地の価値は所在地で決まる!?
ここまでは、賃貸物件による不動産活用を考えはじめた人が把握すべき、国内の現状と将来動向の予測について触れてきました。続いて、活用を検討している不動産の所在地について、考えておきたい事項を挙げていきましょう。
1. 所在地の特性を把握
利便性の高い土地が不動産活用に適していることは確かです。ただ、所在地の「特性」と「活用の仕方」を適合させることが重要で、所在地のニーズに合わせた賃貸物件を提供できれば、長期間の安定経営が可能になってきます。
例えば、ファミリー層が多い場所に、単身者用の賃貸物件を用意しても空室リスクは高いままです。それと同じように、低所得者が多い地区に、高級感あふれる賃貸物件を建てても入居者は集まらないでしょう。
2. 周辺施設を調査
駅近で利便性の高い場所でも、周辺に「嫌悪施設」があるとマイナス要因になります。商業施設・病院・図書館などの公共施設が利便性を高める施設だとすれば、ゴミ焼却場・葬祭施設・高圧線電線・鉄塔などは嫌悪施設です。活用を考えている所在地から、徒歩5~10分圏内の環境を調査することをおすすめします。現地をくまなく歩くことで、周辺環境を把握できるでしょう。
3. 周辺住人の特性を把握
「高級住宅街」といわれている地域には高所得者が集まります。反対に、低所得者が集まりやすい地域など、地域ごとに特色も出てきます。実際に不動産周辺を探訪し、住人の特性を把握しておきましょう。地区の住人の特性を知ることで、その地区に適合した物件が提供できます。
賃貸経営の要点はキャッシュフロー
賃貸経営で意識しなければならないのが、キャッシュフロー(手元に残る金額)です。税務上の不動産所得とキャッシュフローは違います。この違いは、減価償却費と借入金の返済が関係しています。減価償却費とは出金のない経費のことです。借入金の利息分は経費に繰り入れることができますが、元本部分は経費に繰り入れることができません。所得税に関する知識は、賃貸経営では必須です。
また、賃貸物件は経年劣化しますので、劣化に伴って賃料は一般的に低下しますが、この低下を抑えるのが修理・修繕です。オーナーは計画的な修理・修繕を心掛けましょう。きちんとメンテナンスをしていれば、賃料低下はかなり防げます。そのためには、減価償却費から得た利益を将来の修理修繕に必要な資金として貯めておく必要があります。
ここまで、賃貸経営をこれからはじめる人が考慮しておくべき事項について説明しました。インフレ時代とは違い、昨今のデフレ時代は、経年劣化による賃料低下の圧力が増すばかりです。少子高齢化が進み、今後の入居者による物件の選別はますます厳しくなると予想されます。常に入居者のニーズと物件の特性をつかみ、そのためのセンスを磨いて賃貸経営に取り組むことが大切でしょう。