これから不動産投資をはじめる人の多くは、サラリーマンとしての副業、もしくは個人事業主としてはじめる人ではないでしょうか。実は個人として不動産投資をするケースと、法人名義で不動産投資をするケースでは、税率や経理などの仕組みが違います。
ここでは不動産投資する場合、個人・法人のどちらが得かを調べてみましょう。
不動産所得の考え方
個人所有による不動産投資では、不動産所得を個人の給与所得、または個人事業主としての雑所得、事業所得などと一緒に計算して税金を支払います。その一方で法人所有では、あくまで法人の事業所得として不動産所得を得て、それに応じた税金を納めます。不動産からの収入を個人所得とするためには、法人から経営者である自分自身に対して、給与を支払う形式をとります。
個人所有のメリット
本業がサラリーマンの場合、個人で不動産を所有するメリットは大きいでしょう。サラリーマンは控除枠の大きい「給与所得控除」が利用できるからです。また、不動産所得は「損益通算」という制度が利用できます。
たとえば、サラリーマンとしての給与所得が500万円で、不動産を購入した初年度は、税金やローンなどの支払いが多く発生したため、不動産投資で損失が100万円発生したとします。その場合、500万円から100万円を差し引き、その年の総所得額を400万円とすることができます。確定申告で損益通算を行えば、100万円分の所得税や住民税が還元されます。
法人では黒字・赤字にかかわらず、最低7万円の法人税の納税義務が発生します。また、個人の場合、青色申告を行うにしても、法人よりは簡易な帳簿で済みます。法人の場合は複雑な経理処理が必要になるため、経理担当者を雇うか、税理士などに帳簿の作成を依頼しなければなりません。法人として必要なコストをかけたくないのであれば、個人所有のままでいるという選択肢もあります。
法人所有のメリット
もちろん、法人所有によるメリットもあります。個人所得は、給与所得と不動産所得を合算し、累進課税制度が適用され、所得が高ければ高いほど税率も上がります。合計の所得が900万円を超えると、所得税は33%と一気に高くなり、さらに住民税10%がかかって税率合計は43%になります。
一方の法人税は、資本金1億円以下・売上800万円以上の法人で23.4%です。法人事業税と法人住民税を合わせても税率は30%程度で、所得が900万円を超えた個人と比べれば、明らかに法人の方が税金は安くなります。
また、家族や親族を法人の役員として雇い、給料を支払うことで法人としての所得を削減できます。年間給与額が150万円程度ならほぼ税金がかからないため、家族や親族に給料を与えることで実質的な手取りをふやせます。
さらに、交通費や交際費、車の購入費など、経費計上できるものが、個人よりもはるかに多くなります。こうしたメリットを活用して不動産所得を圧縮し、節税をしていきます。
個人と法人はどちらが得なのか
それでは、個人と法人とでは不動産投資するうえでどちらが良いのでしょうか。
まず、個人所有が良いケースは、サラリーマンが副業として不動産投資する場合や、まだ不動産投資の規模が小さい場合です。前述のとおり、不動産所得は給与所得と損益通算ができるので、本業である給与所得に対する節税効果が発揮できます。
また、サラリーマンの立場で法人を設立するとなると、法人の代表者名や法人の本店所在地などが公開されるので、勤め先に副業を持っていることが明らかになるリスクがあります。働き方改革などの影響もあり、企業は社員の副業に対する考え方や態度を変えつつありますが、まだ副業禁止の会社もあります。そういう会社にお勤めの人は法人化はしない、または家族の誰かを法人の代表者にするのが無難でしょう。所得総額が800万円程度であれば、所得税率も23%で、法人税率とそれほど変わりません。経理の手間などを考えれば、個人所有のほうがメリットは大きくなります。
一方、不動産投資の規模が大きくなったら、法人所有にするべきでしょう。年間所得が1,000万円を超えれば、所得税よりも法人税のほうが納税額は低くなります。さまざまな経費を計上して利益を圧縮できますから、帳簿作成の手間やコストを考えても節税のメリットは大きくなります。
また、子どもや孫に不動産を相続させる際も、個人財産は相続税の対象になりますが、法人の代表者名義を、事前に自分から子どもに変更する方法で所有不動産を譲るのであれば、相続税は発生しません。相続税対策として法人設立が有効とされる理由の一つはこれです。
小規模な不動産投資では、法人化による節税メリットはほとんどありません。手間やコストを考えれば個人所有のままで問題はないでしょう。しかし、本格的に不動産投資するのであれば、法人を設立したほうが大きなメリットを受けられます。オーナーの考え方次第ですが、将来的に大規模な不動産投資をするつもりなら、いずれかの段階で法人の設立を検討すると良いでしょう。