不動産投資する人の多くを悩ませる2大リスクが「空室リスク」と「返済リスク」ではないでしょうか。空室が発生すると、当然ながら毎月の家賃収入は減ります。また、家賃収入が少なくなればローン返済が滞るおそれも高まります。
返済ができなくなると、最悪の場合は物件を手放さざるを得なくなるでしょう。返済リスクを少なくするには、まず投資用ローンの融資金額を少なくする、言い換えれば自己資金の割合をふやすということが基本になります。
それでは、自己資金はどの程度あれば安定して賃貸経営ができるのでしょうか。自己資金について考えてみましょう。
自己資金があると返済が楽になる
物件価格3,000万円のマンションを購入する場合について考えてみましょう。3,000万円をフルローンにした場合(自己資金率0%)と、自己資金を900万円(自己資金率30%)用意して融資総額を2,100万円に抑えた場合で、毎月の返済額を比較します。
それぞれ返済利息を3%、25年ローンに設定してシミュレーションしてみると、毎月の返済金額は前者が142,263円、後者が99,584円と、実に4万円以上も違ってきます。3,000万円の物件で、実質利回り8%を確保していたとしても年間の家賃収入は240万円です。
フルローンの場合は、返済額が家賃収入の約71%(年間返済額÷年間家賃収入×100)を占めることになります。しかし、自己資金が30%入っているだけで、これを約50%まで抑えることが可能です。
諸費用は自己資金で用意
投資用ローンで融資を受けられるのは、基本的に物件の購入費用だけです。物件の属性が非常に良く、金融機関の評価額よりもはるかに低い値段で物件が購入できそうな場合はオーバーローンで物件が購入できることもあります。しかし、そのような「お宝物件」が見つけられることは稀です。
つまり、投資用物件を購入する際にフルローンを利用するにしても、諸費用として最低でも物件価格の1割程度は自己資金を用意しなくてはならないのです。仮に諸費用の支払いまで融資を受けようとすると、高額な「つなぎ融資」を利用することになり収益率は大幅に悪化します。
不動産投資初心者は3割の自己資金は欲しい
投資用物件運営の安全性を考えるときに重視したいもう一つのポイントは、家賃収入の何%をローン返済にあてるかという「返済率」です。
もし返済率が50%以下ならば、多少の空室が出てもすぐには経営に支障をきたさないでしょう。しかし、満室稼働でも返済率が60%を上回るようであれば、その物件運営の危険性が高まってきてしまい、少しの空室リスクで経営基盤が揺らいでしまうおそれがあるのです。
先ほどの事例では、3,000万円の物件で利回りが8%、年間家賃収入が240万円ですが、返済比率を50%に抑えるならば毎月の返済額は10万円以下。ここから逆算すると、25年ローンであれば融資金額は2,100万円(自己資金3割)、短めの20年ローンで返済するのであれば融資金額は1,800万円(自己資金4割)になります。
特に初心者はノウハウがまだあまりないということもあり、空室が発生してしまうと新規入居者を見つけるまでに時間がかかってしまうかもしれません。そのためにも自己資金はできるだけ多めにし、返済リスクを抑えるようにするのが得策です。
ベテラン不動産投資家の賃貸経営は
一方で、何棟も投資用物件を購入しているベテラン投資家の場合、必ずしも自己資金にこだわらないケースが少なくありません。そういった人たちは、「手元にキャッシュフローが少しでも残ればいい。わずかなキャッシュフローを積み重ねて最終的に大きな利益を生み出していく」という考えを持っています。
さらに、諸費用にだけ自己資金を投入して、フルローンで物件を買い増していくという投資家もいます。ベテラン投資家は金融機関とのつながりも深く、また長年の経験から賃貸経営のノウハウも蓄積しているため、「空室が出てもすぐに客付けできる」という自信と裏付けを持っています。だからこそ、そうした行動が取れるわけです。
自己資金投入の割合に正解はありません。空室リスクにどのくらい耐えられるかという判断基準も個々で変わります。万が一に備え、手元にキャッシュが潤沢にあっても、自己資金をそれほど投入しないという人もいるでしょう。また、できるだけキャッシュを使って物件を購入する人もいます。それぞれ投資スタンスとしては間違いではありません。
ただし、不動産投資の初心者は、リスクを抑えるためにもそれなりの自己資金を投入して安全な経営を目指しましょう。最低3割、できれば4割程度投入できれば安心です。
※2018年5月現在では、自己資金が少なくても融資がおりるケースがありますが(不動産会社によります)、基本的には自己資金をある程度準備するのが望ましいといえるでしょう。