1つの賃貸物件で、共同生活を営むシェアハウスは、多様化する居住ニーズに応えた住宅形態といえます。家賃の安さなどメリットが多い一方で、共同生活の不都合さやデメリットもあります。
近年は、このシェアハウスの問題点をクリアした、新しい住宅形態とされる「ソーシャルアパートメント」が増えています。「プライバシースペース+共有スペース」を併せ持つソーシャルアパートメントに注目します。
シェアハウス利用の実情
国土交通省「シェアハウス等における契約実態等に関する調査(2014年3月)」によれば、シェアハウスなど貸しルーム物件は全国で3,000件、そのうち東京23区が1,900件を占めます。入居者は20〜30代が中心ですが、近年は30代前半の割合が拡大しています。正社員が47%、平均収入は15万~25万円が3割を超えます。
入居動機は「立地のよさ」と「家賃の安さ」がそれぞれ約6割(複数回答。以下同様)です。一方、退去理由は「職場の移動や結婚など転居せざるを得ない」と「当初から短期的予定」が各4割弱でした。見逃せない点として、「入居者のマナーが悪いから」が9.3%、「想像していた共同生活と違っていたから」が7.7%、「入居者間のトラブルがあったから」が6.2%となっています。
シェアハウスのトラブル要因
シェアハウスは、一軒家で数人が共同生活をするというコンセプトなので、円滑な共同生活のために、さまざまなルールが定められています。このルールを守らない人がいると、トラブルになるのはもちろん、ルールのある生活が次第に面倒になる人もいます。
具体的には、入浴や洗濯の時間に制限があるなどです。仕事で遅くなって帰った時や、早朝に外出する時もシャワーが使えないこともあるでしょう。洗濯は深夜や早朝などを避け、他人が洗濯機を使っていない時に行わなければなりません。
その他にも、キッチンやバス・トイレなど共有スペースの掃除、地域のゴミ出しルールに基づいたごみ出しは住人が当番で行います。一人暮らしのように自分のタイミングで行うことはできませんし、人によって家事の丁寧さも異なります。複数で住んでいるためゴミも多く、夏場に出し忘れた場合は特に大変でしょう。
いいとこ取りのソーシャルアパートメント
そこで、一人暮らしの「プライバシー」と、シェアハウスの「人とのつながり」という両方のコンセプトをあわせ持つようにしたのが「ソーシャルアパートメント」です。
普通のアパートにラウンジなどの共有スペースを付加した物件で、共有スペースを通らずに自室に直接入れるなど、一定のプライバシーが守られます。キッチン・バス・トイレを自室に備えた従来のアパートタイプもありますが、それらが共同の場合でも、共有スペースの清掃は管理スタッフが行います。シェアハウスのように、掃除当番などルールや縛りがない自由さがあります。
また、住人の多いソーシャルアパートメントでは、より多くの人と出会えます。ここでの出会いは、一緒に遊べる友人を増やすだけでなく、ビジネスパートナーに発展するケースもあるようです。共有スペースは入居者との交流だけではなく、外部の人を招いてのパーティーやイベントも楽しまれています。
個性豊かなラウンジ
ソーシャルアパートメントの共有スペースは、どのような空間なのでしょうか。
例えば、大企業の寮を改装した物件などは共有スペース自体が広くゆったりとしています。カフェ風のおしゃれなラウンジが造られたり、広く機能的な入浴施設などが人気です。以前、地域の人も利用できるカフェとランドリーを併設した物件がニュースになりました。
新築物件のソーシャルアパートメントでは、さまざまなコンセプトを打ち出す物件が増えています。共有スペースはそれらの象徴を担っています。
<ソーシャルアパートメントのコンセプト例>
・「IT技術者専用」物件
・AppleTVが視聴可能な共有TVや、直接プロジェクターを投影できる
・「インターナショナル」物件
・外国人入居者の比率が高く、国際的な雰囲気がある
・「自転車と暮らす」物件
・自転車での乗り入れが可能
このようにソーシャルアパートメントは、入居者同士の親睦を深め、情報交換やライフスタイルが共有できます。そしてシェアハウスのメリットを取り入れながらプライバシーを重視することができ、清掃などは管理側が行ってくれます。
必然的に家賃や管理費はシェアハウスに比べて割高になりますが、一般住宅とシェアハウスのメリットを併せ持つ住宅形態は都心の独身者に魅力的に映るようです。今後、不動産業界で注目されていくかもしれません。