国内では、一度購入した住宅を終の棲家と考える傾向が強く、高齢者の住み替えはあまり見られませんでした。
しかしながら、年齢とともに住まいに対するニーズは大きく変化しています。定年後は子どもや孫のそばに住みたいという人や、これまで住んできた住宅をバリアフリー化するなど、住環境を変えたいと希望する人が実は少なくありません。近年、そんな希望を資金面からサポートする「リバースモーゲージ型住宅ローン」を利用する人が急増しています。
ふえるリバースモーゲージ型住宅ローン
リバースモーゲージ型住宅ローンとは、持ち家に暮らしながら、その家を担保として金融機関からお金を借り入れるローンのことです。このリバースモーゲージ型住宅ローンを利用する人が近年はふえており、住宅金融支援機構によると2017年の申請戸数は174戸にのぼりました。2016年は39戸だったので、4倍以上に増加したことになります。
利用者は生前、利息のみを支払い、死亡時に担保となっている自宅を売却して元金を支払うのがこの仕組みの特徴です。フラット35などの提供に関わる住宅金融支援機構と各金融機関が協力して提供されている融資商品です。
住宅金融支援機構は、金融機関に対して保険契約を提供し、死亡時に相続人から借入の返済を受けられない場合には、保険金で融資分が補填されます。
年齢や資金の使い道は限定
リバースモーゲージ型住宅ローンは「死亡時の一括返済」という特徴があるため、利用できるのは満60歳以上の人に限られます。また、借入の利用目的は新たな住宅の購入及び住宅のリフォームに限定されており、生活資金への流用は認められません。
たとえば、「子ども世帯の近くに住み替えて孫の世話を手伝いたい」「老後は買物や通院に便利な町に住みたい」といった買い換えニーズに利用することが可能です。また、「手すりの設置や段差の解消などのバリアフリー改修がしたい」「古くなった住まいをリノベーションしたい」といったニーズにも利用できます。
各金融機関が上限額や金利を設定しているので、希望者はまず金融機関に条件などを打診して、利用を検討する必要があります。
手元資金を残して余裕のある老後を
リバースモーゲージ型住宅ローンを利用する最大のメリットは、手元資金を残して住環境を整備できることです。新居を購入したり古くなった自宅を改修したりするためには、まとまった資金が必要です。
60歳を過ぎてから大きな資金を用意するのは簡単ではありません。年金で借入を返済するのは大変ですし、退職金などの蓄えを費やしてしまうと生活不安が生じてしまいます。リバースモーゲージ型住宅ローンなら、利息のみの支払いで資金を調達できるため、高齢者には都合の良い仕組みと言えます。
実は、この金融商品自体は一昔前からあるもので、目新しいものではありません。近年になって利用する人がふえているのは、借り手の死亡後、自宅の売却代金が借入を下回った場合にも残債の返済を請求されない「ノンリコース型」を各金融機関が提供するようになったためです。
死亡時に物件の売却資金で一括返済しなければなりませんが、不動産の価値が当初の査定よりも下がり、売却代金が債務を下回った場合、従来は相続人に債務が引き継がれてしまいました。そのため、子どもに迷惑をかけたくない高齢者は利用しにくいという事情がありました。
ノンリコース型なら、債務が残った場合も子どもたちに迷惑をかける心配がありません。そのため、利用がふえているのです。
空き家が減少 住宅市場が活性化?
リバースモーゲージ型住宅ローンの普及が進めば、住宅市場にも一定の変化が現れるかもしれません。
高齢者が暮らしていた住まいが子ども等にいったん相続されると、住み継がれない場合もあり、なかなかすぐには売却されません。相続人が経済的な必要性に駆られるまで売却されないケースも多く、空き家としてそのまま放置されるケースが多々見られます。
ところが、被相続人がリバースモーゲージ型住宅ローンを利用していた場合、相続人は物件を売却して返済代金を作らなければなりません。そのため、ほとんどの場合で所有者が死亡すると同時に、市場に提供されることになります。
一方、リバースモーゲージ型住宅ローンの利用がふえることで、資金を得た高齢者の住宅購入やリフォーム需要も活性化されます。こういった動きにより、住宅市場全体が活発になると考えられるのです。
まとめ
リバースモーゲージ型住宅ローンは、多くの高齢者が直面する「住」の問題を解決する一つの手段です。ただ、急増したとはいえ、利用件数はまだまだ非常に少ないのが現状なので、今後は一般的な住宅ローンと同等の周知が必要でしょう。
子どもや孫に迷惑をかけることがないノンリコース型の周知が進めば、利用件数がもっと増加し、空き家の減少といった、社会に良い影響を与えることも考えられます。