2020年に民法が大幅に改正されるのを前に、国土交通省は賃貸借契約の標準となる契約書を改訂しました。
連帯保証の限度額を契約時に定めたり、サブリース用の標準契約を設けたりするなど、新たな取り組みが盛り込まれており、不動産投資を手がけるオーナーは一定の影響を受けそうです。
国土交通省が「賃貸住宅標準契約書」を改訂
国土交通省は、2018年3月30日に「賃貸住宅標準契約書」を改訂しました。同契約書は、アパートやマンションなどを賃貸借する際、入居者とオーナーが交わす契約書のモデルとして国土交通省が作成し、提供するものです。
各種法令や社会情勢の変化に伴い、適切な賃貸借契約書の形式も変わります。今回発表された新たな標準契約書は、2020年の民法改正および近年社会問題化しているサブリース契約に対応するものとなっています。
一般的な賃貸借契約書に加え、サブリース問題に対応する「サブリース住宅原賃貸借標準契約書」を新設。また、家賃保証会社を利用するケースが6割を占めることから「家賃債務保証型」が新たに設けられました。
民法改正で連帯保証に上限
今回の改定で目を引くのは、連帯保証人の保証上限額を設けたことでしょう。改正民法では、連帯保証に上限額(極度額)を設けることが義務づけられているため、「標準契約書」にも「極度額の記載欄」が設けられました。
それに伴い、国土交通省では上限額を設定する参考資料として、「極度額に関する参考資料」を発表しました。全国の家賃債務保証業者13社を対象に行った聞き取り調査の結果をまとめたもので、家賃帯ごとに損害額の分布や平均、最高額などが示されています。
たとえば、家賃4~8万円未満の場合、損害額の中央値は19.0万円、平均値は28.2万円、最高額は346.0万円となっています。上限をいくらに設定するかによって受けられる保証が変わってくるので、物件のオーナーにとっては注意すべき事項となります。
サブリース型は急増するトラブルに焦点
一方、サブリース型には、近年急増しているサブリース契約の問題を軽減するための契約条項が多数盛り込まれています。賃料改定時期の設定やサブリース事業者側から契約を解除できない期間の設定などを契約に入れることで、問題の発生を抑えようとする国土交通省の考えが織り込まれているものと言えます。
サブリース契約は、物件を販売する会社が「投資家の利益を保証する」とうたうために提供されるケースが大半です。ところが、長期契約をうたっていながら、空室の増加など入居状況が変わると短期で家賃が引き下げられるケースが少なくありません。
オーナーが応じないと、一方的にサブリース会社が契約を解除するなどの問題がこれまで指摘されてきました。国土交通省では管理業務の適正化を図るため、「賃貸住宅管理業者登録制度」を2018年7月に施行する予定です。
同制度では、サブリース契約に伴うリスクの説明を重要事項説明として義務づけており、「サブリース住宅原賃貸借標準契約書」を軸とする今回の改正で、トラブルを抑制するのが国土交通省の狙いです。
標準契約書を使用しない場合も民法改正に注意
賃貸借契約はあくまで民間の契約であり、国土交通省が作成する標準契約書の使用を義務づける法律はありません。したがって、利用するかどうかは主にオーナーの判断にゆだねられます。
ただし、改正民法に合致する賃貸借契約書でないと、今後は契約自体が無効になることがあるため、オーナーは注意が必要です。独自に契約書を作成する場合には、弁護士や司法書士などの専門家に依頼するほうが良いでしょう。
まとめ
「賃貸住宅標準契約書」は、国土交通省がイメージする不動産投資のモデルを示すものと考えることができます。今回の改訂では、民法改正に伴って連帯保証の範囲を狭めるなど、入居者の保護を重視する姿勢が明確です。
一方、サブリース契約についてはオーナーの保護が意識されており、バランスのとれた改訂と言えそうです。