不動産の賃貸はこれまで、物件ごとに用途が決まっており、期間も最短1週間単位など、小回りがきかない硬直的なビジネスでした。そのため、突発的なニーズに応えることができないなど、機会損失を生み出すことが多く、不動産投資の利回りを考える上では目に見えにくい障壁の一つでした。
そんな不動産の賃貸事業に、用途を限定せず時間単位で貸し出す新たなビジネスモデルが登場し、人気を博しつつあります。
ジワジワ盛り上がる新しい「空間貸し」
不動産の賃貸はこれまで、住居やオフィス店舗など、特定の用途に向け、長期的に貸し付けるビジネスモデルがほとんどでした。多用途の短期貸しは集客や管理に手間がかかり、利益率が悪いと見なされていたため、不動産投資では敬遠されてきたのです。
ところが、最近ではインターネットが普及したことで、集客および物件の登録や予約が簡単になりました。さらに、利用客への連絡や予約受付などの管理業務もインターネットの利用によって簡便になってきたため、収益性の高いビジネスになりつつあります。
空間の持ち主と利用者を結ぶ方法としては、マッチングサイトである「SPACEMARKET」がよく知られています。その他にも、個人宅や店舗、変わったケースではお寺の本堂などを所有者が時間単位で貸し出すケースも見られるなど、空間貸しは新しいビジネスとして盛り上がりつつあります。
多様な物件に多様な個人のニーズ
空間貸しが人気を博しているのは、生活様式やビジネススタイルが多様になる中、利用者のニーズが多様化しているためでもあります。たとえば、個人なら各種パーティーやオフ会などの集まりや料理教室などの習い事、写真撮影、勉強や仕事の場、楽器の練習や演奏場など、空間に対するさまざまなニーズがあり得ます。
空間貸しを利用することで、これまで適当な空間がないから手がけられなかった趣味などを楽しめるようになれば、生活はより充実したものになるでしょう。
一方、法人には会議室や展示場、面接会場、研修会場など、ビジネス展開によってさまざまなニーズが生まれます。新たなビジネス展開を試みる際には、空間を確保するために大きな資金が必要ですが、常に使うわけではない空間を用意するために資金を使うのは無駄が生じてしまいます。空間を時間単位で借りられれば、社屋に新たな資金を投じなくてもいいため、会社の資産をより効率的に活用できるようになります。
こういった需要の拡大を受けて、空間貸しビジネスは近年拡大しており、前述した「SPACEMARKET」に登録している物件は、2018年5月時点で9000件近くもあります。物件の種類も多様なので、借り手はニーズに応じて適切な場所や大きさ、特徴のある物件を選ぶことが可能です。
空間貸しなら物件の弱点が強みになることも
投資用不動産にはそれぞれ特徴があり、その特徴が収益性を引き下げる弱点になってしまうことも珍しくありません。空間の利用方法を限定していると弱点は弱点のままですが、多用途で貸し出すと弱点が強みになり、新たな価値として評価されることもあります。
たとえば、アパートやマンションの1階は上層階に比べてセキュリティ面を心配する人が多く、居住という用途に限ると不利です。ところが、1階には人目に付きやすいという利点があるため、イベント会場やワークショップなどとしてはむしろ人気が高いのです。
同じく、適切な修繕がなされず土壁が崩れたままというような空き家は住居としては不人気ですが、最近ではコスプレを楽しみたい人たちから絶好の写真撮影場所と評価されることがあります。
こういった評価は用途を限らない短期利用だからこそ生まれるものであり、空間貸しが生み出す利点の一つとして注目されています。
組み合わせて不動産投資の利回りアップ
アパートやオフィスビルなどの投資物件を保有するオーナーにとっても、空間貸しは魅力的なビジネスです。これまでのような長期貸しと組み合わせて、空室期間は部屋を短期貸しすれば、物件の収益性を高めることができます。
借入を利用して不動産投資する場合、空室は大きなリスクですが、より手軽に借り手が見つかる空間貸しを利用すれば、リスクを抑えることが可能です。空間貸しによる収益をローン返済にあてることにより、手出しが必要になるリスクを圧縮できます。
そういった利点を考えると、空間貸しも視野に入れた物件保有が戦略の一つとして今後有効かもしれません。「キッチン設備が充実している物件でパーティー需要や料理教室需要を狙う」「防音工事を施して、楽器演奏のニーズに応える」など、さまざまな戦略が考えられます。
まとめ
一般的に、不動産ビジネスは「重厚長大」という言葉が似合うビジネスです。その分、小回りがきかないのが大きな弱点でしたが、最短1時間という単位で物件を貸し出す「空間貸し」はその弱点を打ち消すまったく新たな不動産ビジネスと言えます。
個人の生活が多様化し、ビジネスがスピードを求める時代において、今後大きな発展が期待できそうです。