IT技術による不動産事業の進歩、「不動産テック」においても、核になる技術と考えられているのが仮想通貨の取引管理で知られるブロックチェーン技術です。
「分散型台帳」とも呼ばれるブロックチェーンは、これまで中央集約型だった情報管理の仕組みを根底から変えるものであり、不動産業界に大きな進化をもたらすと期待されています。
いよいよ導入 不動産取引にブロックチェーン
IT技術で世界のトップを走るアメリカは不動産テック推進の最先端でもあります。そんなアメリカのバーモント州で2018年3月、世界で初めてブロックチェーン技術による不動産取引が行われ、成功裏に完了したと報じられました。
同州のサウスバーリントン市ではブロックチェーンによる不動産登記システムを試用しており、アメリカでは一部で法的なインフラを整える段階に入っています。
ブロックチェーンは取引などの記録を誰でも検証できるよう透明性を高め、改ざんを防ぐ技術で、次の3つの特徴があります。
①プライバシーを保護しながら個々の資産を保障できる。
②特定の人が責任を負って管理しなくてもデバイスにより自動的にシステムが維持管理される。
③システムにより契約の締結や履行を保証することができる(スマートコントラクト)。
国内でも、こういったブロックチェーンの利点を活かして不動産賃貸契約を実行する仕組みを、積水ハウスが2018年夏以降に首都圏で稼働する予定と発表しています。
透明性が高まり取引のフェアネスが確保される
ブロックチェーンの導入は不動産取引に高い透明性とフェアネス(公正さ)をもたらすものと期待されています。たとえば、取引の情報が共有されるため、過去の売買価格を誰でも知ることができます。
不動産取引ではこれまで、営業マンの口車に乗せられて、不当に高い値段で購入したり、売却したりというケースが多々見られました。不具合のある中古物件をそうと知らされずに売りつけられるといったケースも珍しくありません。
そのため不動産取引はわかりにくく不安が大きいと感じる人が多く、不動産市場の活性化を阻む要因の一つとなってきました。過去の取引履歴が簡単に閲覧できる形で記録されれば、誰もが相場を把握して取引できます。また、物件の来歴や修繕履歴等の情報がブロックチェーン化されれば、判断が難しい中古物件についても価値を正しく理解することが可能です。
このように、ブロックチェーンが本格的に導入されることで、フェアな取引が可能になり、市場が活性化する可能性が高まると期待されているのです。
取引の即時化と費用削減も
ブロックチェーン技術は契約手続きの簡素化にも大いに役立ちます。前述したスマートコントラクトにより、契約の締結や履行が保証されるので、将来的にはこの技術により面倒な手間や費用がかかる契約の手続きが不要になるのでは、と考えられています。
スマートコントラクトでは当事者双方が合意した事実をデジタル情報としてブロックチェーンに登録します。それをもって契約締結と見なすことができるため、役所への登記を省略しても取引契約を裏付けられるのです。
現在のような登記が不要になれば、登記費用・登記手数料(司法書士)といったコスト負担がなくなります。また、即時に契約が締結され、その情報が即時に共有されるので、タイムラグがなくなるのも大きな利点です。
進化する技術と待たれる法改正
ここまで解説してきたように、ブロックチェーンにより不動産取引の情報が共有されるようになると、不動産取引の安全性や利便性は大きく高まると考えられています。
ただし、コインチェック社で発生した仮想通貨の抜き取り事件のように、想定されていないトラブルが発生するおそれは否定できません。
契約や登記については法的な規定があるので、ブロックチェーンを利用するためには法律を改正する必要があります。したがって、今後は技術の進化を検証しつつ、起こりうるさまざまなリスクを踏まえた上で、ブロックチェーンを不動産取引で有効利用できるよう、法や制度の整備を進めることが社会に求められるでしょう。
まとめ
ブロックチェーンと不動産取引の親和性は高く、導入が進めばこれまでにない革新的な進化が不動産業界にもたらされます。誰もが不安を感じることなく不動産取引を行える社会が実現することで、不動産の売買は多くの人にとってより身近なものになっていくはずです。