家族のニーズに合うよう頑張って選んだ住まいも、ライフスタイル等が変化してニーズが変われば、不便になったり快適性が低下したりすることが少なくありません。そんなときにはリノベーションをすれば、ニーズの変化に合わせることができます。
もとの住まいの造りによっては、リノベーションにも制約がありますが、難しかった水回りのリノベーションについても最近では、自由度を高めてくれる工夫が登場しています。
リノベーションで広がる住まいの可能性
初めてマイホームを購入する年齢層でもっとも多いのは30代です。住まいは人生でもっとも大きな買い物と言われており、多くの人は初めて購入した住まいを終の棲家と考えます。
そのため、家族のニーズに照らして最良と思える物件を選びますが、購入後長い年月を経る中で、家族の人数や年齢・ライフスタイルなどは変化し、住まいに対するニーズも変わっていきます。
30代には住み心地のよかった間取りが、60・70代になると家族のニーズに合致しなくなるケースは少なくありません。
住み心地を維持するカギになるのはリノベーションです。ニーズに合わせて自由度の高いリノベーションができれば、快適かつ安全に長く住み続けることが可能になります。
リノベーションの自由度が高い住まいは買手がつきやすいため、売却する場合も高値がつきやすいという利点もあります。
水回りや排気、耐震性が間取りリノベの壁に
しかしながら、リノベーションにはさまざまな制約があります。たとえばキッチンや浴室、洗面所、トイレなどの水回りは排水管の関係で、後から配置を換えるのが難しいと言われてきました。
もともとマンションにおいては、床下に配置した排水管を傾斜させることで、上下階で共用する垂直の排水立て管に水を誘導しています。そのため、傾斜角度をつけやすいよう排水立て管近くに水回りを集中させることが必須だとされてきました。
キッチンのリノベーションでは換気扇の排気も問題になります。調理の際に発生する油煙やにおいを屋外に排気する必要があるため、通常は排気ダクトによりリノベーションが制限されてしまいます。
リノベーションにおいては耐震性も大きな問題です。耐力壁で地震に耐える壁面構造の場合には、壁を取り払って大きな空間を作ったり、間取りを変更したりするのが簡単ではありません。
困難なリノベーションを無理に行うと費用がかかるため、「それならいっそ建て替えを」というケースが国内では多く見られます。既存住宅の市場が拡大しない理由の一つであり、解決策が求められてきました。
新たな発想でキッチン移動を可能に
そんな中、2017年のグッドデザイン賞では、マンションにおけるリノベーションの自由度を高める商品2件が同賞を受賞しました。
その一つ、野村不動産社が提供する「自由に水回りをレイアウトできる住宅 [ミライフル]」は各戸の排水管を一つ下の階の排水立て管につなぎ、水が落下する際に生じる「引く力」を利用して排水するというもの。
排水を傾斜に頼らないため、立て管との距離に制約されることなく、リノベーションできるのが大きな特徴です。
同じく、三井不動産レジデンシャル社が提供する間取りプラン「imagie」は6つの工夫を盛り込んだ商品ですが、中でも注目はキャスターで移動できるキッチンユニットです。
同商品では、従来は屋外に排気していた調理時に発生する油煙やにおいを浄化して屋内に戻すシステムを採用しています。また専有部内の3カ所にキッチンユニットを接続できる配管の接続ポートを設けているため、ダクトや配管に制限されることなく、容易にキッチンのリノベーション工事を行うことができます。
リノベしやすい構造との組み合わせ
耐震性を確保した上で大きく間取りを変更するためには、もともとの構造も重要です。将来的にリノベーションを意識して、水回りを移動しやすい工夫を盛り込むのなら、耐震性が問題にならないよう配慮する必要があります。
たとえば、クローズドタイプのキッチンを将来はリビングとつながる大空間にしたいと考えている場合、耐力壁に頼る壁式構造だと間仕切りを撤去して大きな空間を確保できないことも考えられます。
一般的に、柱や梁で建物を支えるラーメン構造の方が間取りのリノベーションはやりやすいと言われます。
ただ、間仕切りが耐力壁になっている場合でも、小窓を設けるリノベーションで開放感を高めるなど、工夫によって問題をクリアできることもあります。
まとめ
近年、既存住宅の市場を盛り上げるべく、官民一体の取り組みが進められています。リノベーションの自由度が高い住まいは、さまざまな人のニーズに応えやすいため、中古物件になっても価値が落ちにくいというメリットがあります。
リノベーションの可能性が広がることは、資産価値という視点から見ても大きな意味がある進化だと言えそうです。