昨今の新築アパート建築ラッシュで、アパート供給数が賃貸需要を上回りました。不動産業界は、今後ますます厳しさを増すでしょう。これからのアパート経営では、入居者獲得だけではなく入居者に「長く住んでもらう」ことが求められます。そこで今回は、そのための施策の一つである定期借家契約について考えてみます。
入居審査が甘くなっている
これほど賃貸アパートが増加すると、入居者獲得の競争は熾烈なものとなってしまいます。苦戦されている大家さんも多いことでしょう。空室期間が長引けば、ようやく入った申し込みは、是が非でも成約に結び付けたいと考えるはずです。このような状況を背景に、昨今の入居審査は、かなり甘くなっているようです。
これまでは、保証会社の入居審査が通らなければ入居を認めなかった相手でも、「保証人がいれば可能」となり、最後には「保証人なしでも貯金があるならOK」というように、審査が甘くなりました。これまで通り厳しい審査を行うと、空室はさらに増えてしまうという不安が、大家さんの審査を甘くしています。そこで検討すべきなのが、契約方法を普通借家契約から定期借家契約に替えるという選択です。
定期借家契約の本当の意味
多くの方が「定期借家契約」を誤解しているようです。定期借家契約は、例えば、近い将来に建替などの予定があり、ある時点で一度全ての部屋を空室にする必要がある場合に使われたりしますが、その本当の価値は、「貸主と借主が対等になれる契約」という点にあります。
定期借家契約とは、「更新のない賃貸借契約」です。期間満了になれば、入居者を退去させることができます。この部分が「対等」という意味です。
審査が甘くて、不良入居者を入居させてしまったとしても、定期借家契約であれば、法的に退去させることが可能というわけです。大家さんはもちろんのこと、他の入居者を守ることも可能になります。もちろん、優良な入居者との契約は更新すればいいのです。
普通借家契約では「正当事由」が無いと難しい
普通借家契約では「正当事由がない限り」入居者を退去させることは難しいのです。
この「正当事由」というのが曲者で、借家契約において、大家さん側の「正当事由」が認められたケースはほとんどありません。なぜなら、普通借家契約という制度が、賃貸物件の需要が供給を大きく上回っていた時代に、入居者の住居権を守る目的で作られているからなのです。それが供給過剰になった現在でも改正されずに、当時のままで残っているのです。
この「正当事由」の代わりに必要となっているのが、いわゆる「立ち退き料」です。大家さんは不良入居者を退去させるために「立ち退き料」を支払わなければならないという現象が起きています。
定期借家契約のメリット
大家さんにとっての定期借家契約のメリットは、上述の通りです。もちろん、不動産業者や入居者にもメリットはあります。
不動産業者にとっては、普通借家契約が当たり前の不動産業界において、定期借家契約を扱えることは他社との差別化につながります。また、管理会社も、余計なトラブルに巻き込まれなくなります。
入居者にとっては、大家さんがすべて部屋を定期借家契約で貸し出し、不良入居者を退去させられるようになれば、安心、安全な住環境を確保することができます。
定期借家契約のデメリット
定期借家契約にはデメリットもあります。そもそも、定期借家契約を肯定的に捉える不動産業者が少ないため、前向きかつ適切に行動してくれる不動産業者を大家さんが見つけ出すのが簡単ではありません。大家さんが不動産業者を説得し、取り組むような姿勢が必要になります。
また、定期借家契約というと、「最後は入居者が出て行かなくてはいけない契約」という「負」のイメージが先行し、入居者側の印象があまりよくありません。定期借家契約は「更新型」であることを、入居者にも十分に説明し、むしろ、不良入居者は即時に退去させられて、いい住環境が確保されるというメリットがあることを認識してもらいましょう。
今回は、定期借家契約のメリットについて考えてみました。供給過剰時代のアパート経営では、空室を埋める努力よりも大切なのが、長く住んでもらえる住環境を整えることです。それには、さまざまな方法があり、コストをかけてリフォームや設備投資することも大切ですが、それに適した契約方法があることも頭に入れておきましょう。
日本ではまだ普及していない定期借家契約ですが、海外ではスタンダードな契約です。多くの大家さんに定期借家の必要性を認識してもらい契約形態を広めていくことで、日本の賃貸業も世界に通用するようなものへと成長することでしょう。